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Dyckia(ディッキア)の水やり【応用編】

 

 目次
・ディッキア基礎編おさらい
・育成目的と方針
・育成方針に応じた水やり
 ▶大きく育てる
 ▶締めて育てる
・注意点
 

ディッキア基礎編のおさらい

前回の記事で記載した「ディッキアの水やり」の簡単なまとめは以下になります。
 
・ディッキアは水を好む植物
→その見た目より乾燥地帯に生息し、水は好まないと思われがちですが、ディッキアの自生地は川辺や降雨と湿気の多い地帯です。
 
・水やりのポイント
 ①用土(根元)に行う。
 ②鉢の中の用土が乾いたタイミングで行う。
 ③鉢の底から流れ出す水量を与える
 ④季節(温度)毎にタイミングを計る
 
今回の記事では以上を踏まえた上で、目的毎の水やり方法をお伝えしていきます。
 
 

育成目的と育成方針

園芸植物(特にビザールプランツ)を育てている方全般に共通する考えかと思いますが、植物を育てる上で最も注力する点はその「外見」です。
 
「生かす」事は前提として、植物育成においての本願は植物を格好良く、美しく、自分の想い描く理想の姿に育てる、というもの。
 
つまり「理想の姿に育てる」事が園芸植物の共通した育成目的です
 
しかし「想い描く理想の姿」は各々異なります。
サイズ・形・特徴のどこに注視するかは人それぞれ、好みによります。
 
白くしたい、丸くしたい、平たくしたい、大きくしたい、小さくしたい、棘を強くしたいetc…
 
それらの「理想とする姿」によって方針が決まり、そしてそれに応じた方法を実行する。
これが主な植物育成の流れです。
 
しかし、育てる植物の種類によって、選択できる育成方針の幅は異なります。
 
つまり「とにかく大きく育てたい」という理想があったとしても、育成によって適えることが難しい「現状からほとんど大きくならない」植物もあるという事です。
 
例えば、現地球と呼ばれるマダガスカルやチリから輸入した塊根植物やサボテンを育てる際、多くの場合「成長させる」のではなく「現状の姿を維持する」事が育成方針となります。
 
現地球の塊根植物を代表するグラキリス(Pachypodium Gracilius)などは、育成による変化は芽吹きや開花で楽しむ事ができますが、塊根部分のサイズアップはあまり見込む事ができません。
 
よってグラキリスの理想の姿が「大きいもの」という方は、初めからサイズの大きいグラキリスを選ぶ必要があります。
 
そして「現状を維持する」という育成方針に応じた育成方法を実行する、という選択をする事が非常に多いです。
 
 
では「ディッキア育成で選ぶことのできる方針は?」というと、その選択肢はかなり広くあります。
 
大きくしたい、締めて育てたい、白くしたい、群生させたいetc…
 
なぜなら、ディッキアは成長が早く、育成方針・育成方法による違いが顕著に見て取れる植物だからです。
 
なので「植物を作り込む楽しさ」を植物育成に求める方とディッキアは、非常に相性がいいと言えます。
 
ただし、変化が大きいというのはリスクでもあります。
育成方針・方法の選択ミスによる失敗(光量不足による徒長など)もその外見に顕著に現れてしまうからです。
 
植物は物言わず変化・成長する為、自分の理想の姿に育てる事は容易ではありません。
ただ、成功と失敗を繰り返し、試行錯誤の中で植物を理想の姿へと作りこんでいく事こそ、植物育成の醍醐味だと私は思います。
 
 

育成方針に応じた水やり

それでは、
「ディッキアを大きく育てる」
「ディッキアを締めて育てる」
その二つの育成方針の違いによる水のやり方を紹介していこうと思います。
 
※この方法で水やりをすれば確実にこう育つ、と断言するものではありません。
用土の配合、日照時間や湿度、土地の年間での気温の変化などなど、条件が一つ違えば変わってきますので、あくまで育成の参考としてご理解下さい。
 
ディッキアの成長期は春~秋。
気温の目安としては平均気温が20℃を超える季節です。
 
その期間の水やりがディッキアの成長・変化に大きく影響していきます。
 

▶大きく育てる

 
大きく育てる。
つまりディッキアの成長速度を上げる、という育成方針を取った場合。
 
選択する育成方法は「より多くの水を吸わせる」です。
 
その為の一つの目安として「用土の表面が乾いたタイミングで水やりを行う」方法をおススメします。
 
ディッキアは水を吸った分だけ成長していきます。
なのでより多くの水を吸わせることができれば、成長速度を上げることができます。
 
余談ですが「水を吸わせれば成長する」というのは多くの植物に共通する事ですが、それは植物の種類によってはリスクの高い水やり方法です。
 
例えば、サボテン等は根腐れが起きやすく、鉢の中に常に水分がある状態だとかなり危険です。
 
以前、大阪の某有名園芸店にて、サボテンの水やりに関して話を聞いた事があります。
 
数十年もの間、膨大な数のサボテンを管理されているその方の話を要約すると、
「サボテンは乾燥地帯に生えている。そういう場所では半年間雨が降らないなんてこともある。それでも生き延びる事の出来るサボテンはあまり水を必要としない」
との回答でした。
 
しかしそれは「殺さない」方法であり「成長させる」方法ではありません。
 
成長させるには生き延びる上で適量としている以上の水やりを行う必要があります。
サボテンが水を吸うか、吸わないか。吸えば成長。吸わなければ「死」のリスクが高まります。
つまり「生存」と「死」の間に「成長」はあり、その適量を見極める必要があります。
 
その感覚を得るのは容易ではなく、その為サボテンは美しく作り込むのに多くの知識と高い技術が必要とされます。
 
しかし、ディッキアは「健剛」「水を非常に好む」という特性を持った植物。
よって、水のやり過ぎによる根腐れのリスクはかなり低いと言えます。
 
実際、ディッキアの育成方法として、ほぼ毎日水やりを行っている方や腰水管理を取っている方もいらっしゃいます。
 
※腰水とは…水を張った受け皿やバケツなどに鉢を入れ、鉢底から水を吸水させる方法。
 
しかし常時鉢の中に水気がありすぎる状態は根が上手く呼吸できず、機能の低下を招く事もあるため「常に大量の水を土に与えておく=ディッキアが成長する」というわけではありません。
 
成長速度を上げるためには「根の機能を保ちつつ、最大限水を吸わせる」必要があります。
 
▶締めて育てる
 
「締めて育てる」とはつまり「棘や葉の密度を高めながらコンパクトに育てる」事を指します。
※ちなみに、私はこちらの育て方がメインです。
 
締めて育てる上での水やりの方法は「成長するかしないかという頻度で辛めに水やりを行う」事です。
 
具体的な水やりの目安として、鉢の中の用土が完全に乾き切ったタイミングから3日~1週間ほどの期間を空けて水やりを行います。
※株の状況を見て水やりを行うか否かを決める為、一概には言えません。あくまで目安です。
 
水やりを行うときは、通常の水やりと同じ方法。
鉢の下から水が勢いよく流れ出す量を与えます。
 
見極めを誤り、多少水切れ状態になったとしても、ディッキアは健剛な植物。
水切れにより枯れてしまうリスクは低いです。
 
辛めに水やりを行う意図としては、「成長速度を緩慢にすることで徒長を防ぐ」事にあります。
 
ディッキアの徒長は葉が間延びしたり、棘と棘の隙間が広く空いてしまう事を指します。
 
※締めて育てられているかどうかを確認するときは、棘と棘の隙間に注目すると分かり易いです。
棘の間が狭く、葉に棘が詰まっている状態だと「上手く締めながら育てられている」と判断できます。
 
しかし「締めて育てる」上で重要な要素は「バランス」です。
日光と用土、そして水やり。
全てを控えめにすれば締まって育つ、というわけではありません。
 
直射日光と風、水はけの良い用土(肥料なし)、そして控えめな水やり。
それらのバランスと、それぞれが植物に与えているストレスの影響を随時観察し、適度なラインを追及していくことが、ディッキアを締めて育てる上で必要となります。
 
 

注意点

以上の水やり方法は基本的にディッキアの状況が良い、つまり根が健康に活動している状態を想定しています。
 
根が上手く機能していない状態では、水やりを行っても上手く吸水する事が出来ず、根腐れや水切れによる枯れに繋がる場合もあるのでご注意下さい。
 
株の根が上手く機能しているか否かの判断は、基本的に葉の状態で行います。
水やりを行っても葉の皺が消えない、葉の両端が内側に反った状態の時は通常の水やりではなく、養生手法が必要となります。
 
※根を回復させる養生管理の方法としては、半日蔭での腰水管理やダコニールでの殺菌などが挙げられます。
 
また、前述しましたが自身の育成環境に適した水やりの方法を模索していく事は必須です。
葉は動いているのか、徒長の傾向はあるか、などを日々観察してみて下さい。
 
そうやって「なんとなく」ではなく意図的に育てる事で、環境に適した育成方法が少しずつ分かっていくはずです。
 
また、そうやって気を遣いながら育てていく事で、その株に愛着が湧きます。
 
当然ですが、植物は無機質な置物ではなく生きて成長していきます。
その変化に一喜一憂する。
それこそ植物育成の何よりの面白さと私は思っています。
 
試行錯誤を通して、楽しみながら自分の理想とするディッキアを作り込んでみて下さい!
その際、この記事がディッキア育成の一助となれば幸いです。
 

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ビザールプランツと呼ばれる珍奇植物を中心テーマに植物用品をデザイン・制作するクリエイターチーム。"人の手で生み出す造形"をコンセプトにプラスチック鉢や陶器鉢、シルクスクリーン、刺繍ポスターなどを商品展開。Dyckia・Agave・Caudex・Euphorbia・Cactus・Bonsai…。多種多様な美しい造形をした植物のある暮らしをデザインする。それが私たちの仕事です。

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