D.I.P.

Dyckia(ディッキア)Hybridとは

 

 

 

はじめに

ディッキアの基礎知識でも紹介したように、ブロメリア科に属する多肉植物の一種Dyckia(ディッキア)は大きく原種とHybrid(ハイブリット)に分けられます。

 

ディッキアに魅了されて約7年。

現在私は200株程度のディッキアを育成していますが、その大半がハイブリット種になります。

 

自然界が作り出した造形である原種には原種にしかない魅力がありますが、人為的な園芸品種であるハイブリットにはハイブリットにしかない魅力がこれでもかと言うほど詰まっています。

 

今回は、それらディッキアのHybrid(ハイブリット)と呼ばれる交配種に関して、その特徴や魅力を紹介していきます。

 

 

Hybrid(ハイブリット)とは

Hybrid(ハイブリット)とは「異種の組み合わせにより生み出されるモノや生物」を意味する言葉。

語源はラテン語の「hybrida」らしく、元々はイノシシと豚の掛け合わせである「イノブタ」を表す言葉だったそうです。

 

ディッキアのハイブリットとは、その言葉が意味するように、掛け合わせによって生み出された品種を指します。

 

人為的、または自然発生的に生み出されるものですが、この記事では人為的(意図的に)生み出されたものに関して紹介していきます。

 

ディッキアは個体によって様々な特徴があります。

白いもの、赤いもの、トリコームが厚く乗ったもの、光沢のあるもの、棘の強いもの、弱いもの、密集しているもの、大型のもの、小型のものetc…

 

「各品種の魅力的な特徴を併せ持った品種を生み出す」

または、

「今まで見たことのない特徴を持った品種を生み出す」

 

そのような意図でハイブリットは作られています。

 

では、具体的にどのようにしてハイブリットを作り出すのか?

 

ハイブリットを作り出す構造としてはそう複雑なものではありません。

 

親株となる二種のディッキアを決め、種子の母体となる親株の雌しべに、掛け合わせる株の花粉を付着させる。

見事受粉が成功し種子が実れば、ハイブリット遺伝子を持つディッキアの誕生です。

 

デッキアの種子は一度に数百単位で作られ、それぞれの種子が親株の遺伝子をどのように引き継いでいるかはバラバラ。

ある一定の大きさ(育成1~2年)になるまで個体の特徴を判別する事ができません。

 

※また、ディッキアは成長による変化の激しい種となるので、サイズが大きくなるにつれ特徴の変化が続く事が頻繁にあります。

3号サイズまでは素晴らしかった株が、4号、5号となる中で地味な顔つきになってきてしまったり…。

その逆のパターンも然り。

 

また、交配に使用した親株の特徴しか引き継がないかというとそう単純な話でもありません。

親株の遺伝子にはその株の親株の遺伝子など、膨大な遺伝子情報が入っているため、隔世遺伝などで予期しない特徴が表れる事もあります。

 

なので基本的には、育成家は一度に数千単位で種蒔きを行い、その中から特徴の現れる株を選抜していきます。

 

※ちなみに、D.I.P.のオリジナルハイブリットの育成家様によると、母体となる親株は形や肌質、花粉は刺の特徴を引き継ぐイメージで交配を行っているそうです。

 

 

ハイブリットの魅力

ハイブリットには、肌質や鋸歯(きょし)と呼ばれる刺の出方など、原種にはない特徴を持った美しい株が多く存在します。

 

ディッキアのハイブリットは原種の美しさに更に磨きがかかった個体、といったイメージです。

 

(勿論、全てのハイブリットがそうなるとは限りません。寧ろ数百、数千という中からほんの一握り、限られた株のみが絶妙なバランスでその美しさを持ち合わせています)

 

なぜそのような特徴を持った株が生まれてくるのかというと、前述したようにハイブリットを生み出す為に使用される親株にその理由はあります。

 

原種からハイブリットが生まれ、そのハイブリットの中でも魅力的な特徴を持った株を選抜し親株として使用することで、更に新しいハイブリットが生まれる。

 

選抜により親株の質を高めていく作業をを繰り返していく中で、それらの魅力的な特徴(肌や棘、葉の太さなど)が研磨され、より顕著に現れていきます。

 

ディッキアのハイブリットは登録された有名品種だけでも、その数は300以上。

 

掛け合わせのパターンは無限に存在し、新しい特徴を持ったハイブリットが現在進行形で世界中で生み出されています。

 

 

 

BSI登録品種

ハイブリットの園芸品種名の登録機関としては国際ブロメリア協会(Bromeliad Society International)という組織が存在します。

 

日本も含め、タイやアメリカなど、世界中の育成家達が申請を行っており、その中で正式に新品種と認定を受け、登録された品種はBCR(Bromeliad Cultivar Register)に掲載されます。

 

※ディッキアを調べていく中で「BSI登録品種(BCR)」という記載を目にすることがあると思いますが、それは上記の段階を踏み、正式認定されたハイブリットという意味です。

 

代表的な品種は多くありますが、最も有名な品種となると‘Heave&Hell’が挙げられます。

 

▶Dyckia ‘Heave&Hell’ 白くトリコームの乗った強い鋸歯(刺)と黒く赤みがかった肌質が特徴。 アメリカの育成家、故Bill Baker氏のより作出された品種。

 

 

しかし、一概にBSIに登録されているハイブリットが全てという訳ではありません。

未登録のハイブリットの中でも名のある有名品種は存在します。

 

例えば‘Battle Axe’などはバトルシリーズとして有名ですが、BSIには登録されていません。

 

▶‘Battle Axe’ 攻撃的な刺と金属のような紫がかった肌が特徴。 アメリカの育成家、Michael Kiehl氏により作出された品種。

 

BSI登録品種はある意味「お墨付き」ではありますが、だからといって(基準は人それぞれだとは思いますが)美しいものばかりとも限りません。

 

ただ、BSIに登録する上で「これ以上特徴としての変化がない大きさまで成長させる」事が登録の条件の様ですので、まだ特徴の出ていない株を育てる上で、終着点として大いに参考になるかと思います。

 

▶D.I.P. Orijinal Hybrid Dyckia ‘Red Ripper’בBill Paylen’

 

 

D.I.P. Original Hybrid

D.I.P.ではディッキアの育成家様に協力頂き、D.I.P.でしか手にする事ができないハイブリットを扱っています。

 

それらオリジナルハイブリットのディッキアは、俗に「名無し」と呼ばれるディッキアです。

※「札落ち」とは異なります。

 

交配に使用された親株名をタグに記載していますが、それらはあくまで親株の園芸品種名であり、その株そのものの品種名ではありません。

 

また、有名品種の様に成長した際に現れる特徴の保証があるわけでもありません。

 

勿論、だからと言って質の悪いディッキアという訳ではありませんのでご安心下さい。笑

 

デメリットとして、D.I.P.で扱っているディッキアは「園芸品種名がない」「どの様に成長するか不明」という点が挙げられますが、実はそれが魅力の一つでもあります。

 

園芸品種名があるディッキアの育て方としては「完成形を目指す」というスタンスがほとんどです。

つまり、理想とする姿があり、その目標に向かって育成を進めていくというものです。

 

しかし、D.I.P.で扱っているハイブリットは成長過程でどのように変化するかが分からない。

そこに、育成の面白さがあります。

 

ディッキアの成長速度は速く、夏場では一週間も経たないうちに表情が変わる事も多々あります。

その変化に目をやり、一喜一憂する。

 

現状の特徴がより顕著になったり、新しい特徴が出てきたり。

どのように変化するか分からないからこその育成の面白味があります。

 

また有名品種は人気があるが故に、多くの育成家が欲しがり、手に入れ、増やします。

※アガベもそうですが、ディッキアでは同じ特徴をもった株を増やす場合、種子ではなく子株を取り育成します。

 

ディッキアは他のビザールプランツと比較しても、かなり子株を吹きやすい品種と言えます。

よって同品種が世の中に出回ってしまうのが早いわけです。

 

普及種ともなれば、入手した時との価格差が激しく出てしまう、なんて事も多くあります。

(市場価格が下がることで、その植物の価値が下がる訳ではないとは思いますが…)

 

しかし、D.I.P.の実生ハイブリットは「世界に一つだけ」のディッキア。

育成主が子株を取り増やさない限りは、その遺伝子を持ったディッキアは世界中でその株のみとなります。

 

魅力的な特徴が出る事が保証されているものを安心して育てたい、という方にはD.I.P.のハイブリットは正直向いていません。

 

しかし「育てていく中でどうなるか予想できないワクワクを味わいたい」という方や「他のものと被りたくない。自分だけの植物を育てたい」という方には堪らなく面白いディッキアです。

 

 

最後に

私は数多くあるビザールプランツの中でも、特にディッキアに傾倒してきました。

 

冒頭で記載したように、現在では200株以上育成していますが、しかしその全ての株に魅力を感じているか、というとそうではありません。笑

 

正直、それぞれの株に対する愛着に差はあります。

 

私が育成している中でも最近特にお気に入りの株が、タイの育成家Q氏(Qdyckia)のディッキアです。

 

▶‘Baphomet Horns’בdelicata GF’F1

 

数年前にベアルートで購入しこれまで育成してきた株ですが、ディッキアの中でも特に白系が好きな私にとって、葉の形もさることながら、このトリコームの乗り方は堪らないものがあります。

 

私は今まで100株以上のハイブリットを育ててきたのですが、期待していた株が地味な姿になってしまったり…という経験も多くしてきました。

 

失敗があったからこそ、こういった株に出会った事がとても嬉しく感じるのかもしれない、と最近では思います。

(勿論、失敗しないに越したことはないのですが…)

 

またこの株はQ氏の実生ハイブリットの為、世に出回っていない、世界に一つだけのハイブリットディッキア。

 

そういった点にも、ニヤついてしまう自分がいます。笑

 

原種・BSI登録株・有名品種・名無しのハイブリット。

 

それぞれに魅力があり、育成の面白さがあります。

 

どのディッキアを選び育てるかは、その方の好み次第です。

 

この記事が、皆様が自分に合ったディッキアを見つける、その一助となれば幸いです。

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JPN.FUKUOKA | since 2021.

ビザールプランツと呼ばれる珍奇植物を中心テーマに植物用品をデザイン・制作するクリエイターチーム。"人の手で生み出す造形"をコンセプトにプラスチック鉢や陶器鉢、シルクスクリーン、刺繍ポスターなどを商品展開。Dyckia・Agave・Caudex・Euphorbia・Cactus・Bonsai…。多種多様な美しい造形をした植物のある暮らしをデザインする。それが私たちの仕事です。

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