「ビザールプランツを育てる面白さ」と「鉢の役割」

はじめに
私がビザールプランツと呼ばれる珍奇な形をした植物の存在を知ったのは約8年前。
雑誌「BRUTUS」が「珍奇植物」を特集として取り上げ刊行したのとほぼ同時期に育生を始めました。
それまで植物に殆ど興味を持った事のなかった自分が、今ではD.I.P.というボタニカルブランドまで立ち上げ、鉢やその他のプロダクトのデザイン・制作を本職としているのですから不思議なものです。
この8年間、特にD.I.P.を立ち上げてからの2年間、大好きなビザールプランツを育てる事に対して自分なりに誠実に向き合ってきたつもりです。
「何となく面白いから」「何となく好きだから」という理由でビザールプランツを育てる事が悪いことでは全くないと思います。
ただ「格好いいから」「希少だから」と集めた植物を育てていく中で「どうしてビザールプランツを育てているんだろう?」とふと思うことがありましたし、「何がそんなに面白いの?」と周囲から聞かれることもありました。
本来「ビザールプランツの何が好きなのか」「何が面白いのか」を言語化する事は、野暮な事なのかもしれません。
「好きだから好きでいいじゃない」と言われたら確かにそうだと思います。
ただビザールプランツに関わって仕事をする自分としては、それらの「なぜ」を自分の口で説明できないことには、D.I.P.で提案している事やプロダクトに対し、不誠実なように思えてなりませんでした。

サボテン、ユーフォルビア、アガベ、コーデックス、ハオルシア、ティランジア、そしてディッキア。
全国各地の園芸店を巡り、様々な種類のビザールプランツを育て、沢山のお客様や育生家、ショップのオーナー様ともお話をしてきました。
それらの経験が「植物を育てる事とは」という命題を語るに及ぶ充分な量なのかは分かりません。
きっと充分ではないでしょう。笑
ただ、ビザールプランツを育て、多くの方と話し、自身で考え続けるその中で多くの気付きがあった事は確かです。
そして「これだ! だから自分はビザールプランツが好きなんだ! 育てたいんだ!」という考えに出会えた時、より一層ビザールプランツを好きになることができました。
この記事では自分にとって、そしてD.I.P.として「ビザールプランツを育てる事の面白さとは何か」について記載しています。
ただ決して、植物に対しての向き合い方を限定したり、他の方の意見を否定するものではありません。
ビザールプランツへの向き合うスタンスやイズムとして「D.I.P.ではこういう姿勢で向き合っているし、向き合っていく」という意志を記した内容となっています。
前置きもさることながら、例によって長いです…。
ごめんなさい。笑
ただ嘘偽りのない、本心で思うことを書かせて頂いています。
ぜひ最後までお付き合い下さい。

「ビザールプランツを育てる面白さ」とは
結論から言ってしまうと私はビザールプランツを育てる事、そしてその面白さとは「植物に自分だけの価値を作り出す事」であると考えています。
自分がビザールプランツを育て始めたのは前述したように雑誌「BRUTUS」の影響でした。
雑誌に載っている珍奇な形状の植物たちを見て「こんなに格好良くて美しい植物が存在するのか!」と衝撃を受けたことを今でも覚えています。
それから約8年。
雑誌やネットで目にした格好いい植物や希少な植物、園芸店でたまたま出会った、目にした瞬間心が弾んだ植物。
それらの植物を「手元に置き育ててみたい」という動機で多種多様なビザールプランツをネットや店舗で購入し、育ててきました。
ネットで落札したり園芸店で購入した植物を手にした時の満足感や高揚感は今なお堪らないものがあります。
ただ、欲しい植物を手に入れた瞬間の高揚は時間と共に低減していくもの。
植物棚に並ぶ購入してから数年経過した植物たち。
今もなおその植物たちを購入時と変わらず、いやそれ以上に愛おしく思う気持ち。
それは、その植物が持つ美しさの他に「育生にかかった時間や手間」という目には見えない過程を踏んだことによる価値が含まれているからだと思います。

根腐れや葉焼け、徒長や害虫に気を遣りながら成長を見守り、新しく展開する棘や葉に一喜一憂する。
休眠を経て春に芽吹く葉を目の当たりにした時の安堵と感動。
冬場室内に入れる手間や場所の確保に頭を悩ました事ですら、その植物を大切に育ててきた一つの証です。
それはお金を出して手に入れられる価値ではなく、お金で換算できる価値でもありません。
植物はそれぞれが世界でたった一つの存在であり、「育生を通してそれを更に自分にとって特別な存在にしていくことができる」素晴らしい存在です。
積み上げた手間や時間が多ければ多い程、その植物がかけがえのない、愛おしい存在となります。
育生という過程を積み重ねた本人だけがその植物から受け取ることのできる、目には見えない特別な価値。
それらの価値を積み上げる「育生」という過程を踏む事ができるからこそ、園芸は素晴らしいと、私はそう思います。

鉢の役割
「目には見えない価値を積み上げていく」為の育生作業の中で、鉢はどういう役割を果たしているのか。
私にとって鉢とは
「植物にとっての服」
そう、捉えています。
アパレル業界で何年も勤めている知人から聞いた「服は魔法」という言葉。
鉢も植物に魔法をかける力を持っています。
どのようなデザインの鉢に植え付けるかでその植物の見え方はガラリと変わり、その植物に特別感を与える事ができるからです。
自分にとって特別な植物を特別な鉢に植え付け、仕立てることは「その植物を特別に、大切に育てよう」という意志の表れであり、素晴らしいことだと思います。

「精巧に作り込まれた造形・デザイン性」や「市場価値」はあくまで鉢の持つ要素のほんの一部。
それら要素の価値を否定するつもりは毛頭ありませんが、根底にある鉢の素晴らしさは「どの鉢に植え付けようか選んだり、悩んだりする事ができるという余白」にあると私は思います。
鉢を選ぶ上でかけたその時間や手間が「より特別な存在としての価値」を植物に積み上げさせるからです。
「ちゃんと鉢を選ぶ」という行為は「この植物を大切に育てていこう」という意志の確認作業のようなものではないかと思います。

D.I.P.の鉢の役割
D.I.P.の立ち上げ初期から活動の主軸として行っている鉢の制作。
デザインコンセプトの根底は上記した「植物に特別感を与える事」。
鉢の色も「植物に特別感を与える」というコンセプトの基に「黒」で統一しています。

技術的に鉢を他の色にすることも可能ですが、その上で「黒」を選んだ一番の理由は、黒が「植物が持つ鮮やかな、魅力的な色を際立たせる色」だと思ったからです。
肌の色、葉の色、花の色、棘の色。
その植物にとって個性の一つであり、環境によって日々変化するそれらの色。
その機微な変化や美しさに気付く事は「育生の喜びや面白さ、成果」を実感することに繋がる、一つの大きな要素だと考えてます。
鉢の素晴らしさは植物を植え付ける事ができるからこそ。
だからこそ「料理を盛り付ける皿」のように、鉢は主役であってはいけない。
単体で成り立つものではなく、組み合わせることで完成する。
主役を際立たせる為に、どこか欠落していたり余白が存在する。
そういう未完のものでなければいけないという考えを基に、D.I.P.では鉢の色やデザインを決めています。
(鉢の色の他にもデザインの由来などなど…、色々書きたい事は山ほどあるのですが、そうするとただでさえ長い記事が更に長くなってしまうのでこの辺でやめておきます。笑)

「長い時間をかけて大切に育てていき、その植物を自分にとって更に特別な存在に変えていく」
鉢はそのような「植物を大切に育てていく」事を補助する存在だからこそ、価値のあるものだと私は思います。
そのような「植物を育てる方にとっての価値」を積み上げていく為の補助として、D.I.P.の鉢を使って頂けるととても嬉しいです。
最後に
前述したように「植物を育てる事の素晴らしさ」は「価値を積み上げる事ができるから」だと私は捉えています。
それは市場で測ることもできなければ、お金で換算できるものでも、他人に評価されるものでもない、他ならぬ自分にとっての価値。
私はその品種が市場で安く取引されているからといって、自分が長年、手間暇愛情をかけて育てたその植物を市場価格で差し出そうとは到底思えません。
D.I.P.では鉢やその他のプロダクトを通して、そのような目には見えない園芸の素晴らしさや面白さ、そこに生まれる価値を皆様と共有したいと思っています。
その植物に積み上げられていく「価値」を構成する沢山の要素。
それは「植物を手に入れてから」だけでなく、「手に入れる前」も含まれます。
恥ずかしながら私は「どうしても欲しい!」というその場その瞬間の衝動で、間違った買い方をしてしまい、後悔したことがあります。
その時に購入したとても希少で美しい植物。
ただその植物が目に留まる度、後ろ暗い想いや虚しさ、味気なさを覚えます。
でもその後悔があるからこそ「植物をどこから、誰から購入するか」という事を今はとても大切にしています。
「業界としての継続性が」「植物の保護が」なんて大それた事を言うつもりも、諸先輩方を差し置いて、若輩者の自分がそれを堂々と主張できる立場でもないと思っています。
あくまで、ビザールプランツが大好きな一人の趣味家としての意見です。
私は記憶力には全く自信がありませんが、大切にしている植物をどこで買ったか、誰に譲ってもらったかは殆ど覚えています。
植物の事を本当に楽しそうに、嬉しそうに話す、裏打ちされたプライドと自信を持って植物を扱っていると感じる店舗や人。
経験上、そんなお店や人から譲って頂いた植物は、それを育てる方にとっても、より特別なものになり得ます。
植物を提供する側と育てる側。
そのどちらにせよ「ビザールプランツが大好きだ」と正々堂々と言える。
そんな方々と、これからも数年、数十年とビザールプランツを楽しんでいければ、こんなに幸せなことはないと心から思います。

D.I.P.|Botanical Products Creation Crew
Botanical Products Creation Crew
JPN.FUKUOKA | since 2021.
ビザールプランツと呼ばれる珍奇植物を中心テーマに植物用品をデザイン・制作するクリエイターチーム。"人の手で生み出す造形"をコンセプトにプラスチック鉢や陶器鉢、シルクスクリーン、刺繍ポスターなどを商品展開。Dyckia・Agave・Caudex・Euphorbia・Cactus・Bonsai…。多種多様な美しい造形をした植物のある暮らしをデザインする。それが私たちの仕事です。
屋号 | D.I.P. |
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住所 |
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営業時間 | 10:00~18:00 |
定休日 | 不定休 |
代表者名 | 志方 優輝 |
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