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Dyckia(ディッキア)の子株管理

 

はじめに

ディッキアの繁殖方法としては主に3種類あります。

 

①種子

②子株(PUP)

③分頭株の切り分け

 

親株と同じ姿のものを増やそうとした場合に取られる手段は②または③。

 

※育成環境や作りこみの技術にもよりけりですが、親株と仔株は同じ遺伝子情報を持つ為、同じ姿に育てることが可能です。

 

①の種子による増やし方に関しては(前回の記事「Dyckia(ディッキア)Hybridとは」でも少し触れましたが)、親株の遺伝子情報をそのまま引き継ぐわけではない為、特徴の一部を引き継ぐ事はあっても、全く同じ形状になるという事はありません。

 

今回は親株を増やす際に最も取られる手段である仔株の管理方法に関して、記事をまとめていきます。

 

子株(PUP)とは

ディッキアの子株(カキコ/PUP)とは、株の根本から独立した小さな株の事を指します。

 

Dyckia ‘Gray Ops’. (ディッキア グレイオプス)の子株

 

ディッキアを育てられている方にとっては、馴染深い光景だと思います。

 

子株の種類としては、根本でロゼット状に展開するパターンと、ストロンと呼ばれる茎のような棒状に伸びていくパターンの2パターン。

 

Dyckia goehringii original clone(ディッキア ゴエリンギー オリジナル クローン)

 

ストロンが伸びていくものとしては、ディッキア原種の代表格であるgoehringii(ゴエリンギー)の遺伝子が入っている事が多いように思います。

 

(というより、goehringii関係以外でスロトンを伸ばす品種はないのでは…?)

 

 子株は成熟した大株からしか出ないわけではなく、まだ成長しきっていないサイズの小さな株からも出ます。

 

どのような条件が揃えば子株を出すのか、正確な所は不明ですが、ディッキア育成界隈の通説では、厳しい環境で育てるとディッキアが子株を吹く速度が上がる、とよく言われています。

 

冬場の温度管理や水やりを辛めにすると、株の根本から親株を押しのけるようにして子株が複数生えていきます。

 

学術上の正確なメカニズムは良く分かりませんが、おそらく死に直面すると子孫を残す為にスイッチが入るのではないでしょうか。

 

種類によって子株を吹きすいものと吹きにくいものがあり、子株が吹きにくい株に関しては世に普及する速度が急激に落ちる為、価格が高騰する事も多くあります。

 

子株を出しにくい品種としては、バトルシリーズと呼ばれる ‘Battle Axe(バトルアクス)‘Battle Hatchet’(バトルハチェット)Bone(ボーン)などが挙げられます。

 

Dyckia ‘Battle Axe(ディッキア バトルアクス)

 

Dyckia ‘Battle Hatchet’(ディッキア バトルハチェット)

 

Boneの写真も載せたかったのですが、生憎手に入れられてない株でして…。

 

ここ数年入手を狙っている株なのですが、中々市場に出回ってくれないので、困っております…。

Boneは分頭(ディッキアの頭が割れ、成長点が根元から分岐した状態)でしか増えない株のようです。

 

Dyckia ‘Tooth and Nail’ × ‘A Wintere’s Frost’(ディッキア トゥース アンド ネイル×ア ウィンターズ フロスト)※Dyckiayouup hyb

 

分頭した株を増やすためには根元の分岐した成長点をスパンと割る必要があり、手間もかかる上に、雑菌が入り枯れてしまうリスクもあります。

 

なので、気軽に「譲って欲しい!」と言えないんです…。

 

そもそもBoneを持たれている方自体が少ないですし…。

 本当に骨の様に細く白い、細かい鋸歯が相互に並ぶ美しいディッキアですので、気になった方はぜひ調べてみて下さい。

 

Dyckia goehringii New Form x ‘Bone’(ディッキア ゴエリンギー ニューフォーム × ボーン)

 

Boneのハイブリットを眺めながら、いつも想いを募らせております…。

 

子株の外し方

子株は親株の根元から吹きます。

なので、子株の外すタイミングとしては、植え替えと同時期が主です。

 

(親株を土から抜くことなく取る場合もありますが、下手をすると親株が鉢から抜けてしまいます。その時に株を傷つけてしまう事もあるので、慣れた方以外は、あまりお勧めしません)

 

Dyckia ‘Gray Ops'(ディッキア グレイオプス)

 

取り方としては、なかなか文字として表現するのは難しいのですが、実をもぎるようにして根元から取ります。

 

この時、しっかりと子株の根元を押さえていないと、子株が途中でちぎれてしまったりすることもあるので注意です。

 

 

子株を取ると、根が付いていないパターンと根が付いているパターンがあります。

 

 

どちらも管理方法としては大差ないのですが、根が付いている場合は発根管理の必要がないため、活着(株が根から水を吸い、成長する事が出来ている状態)が容易です。

 

 

子株の発根管理

赤玉の小粒(通常の育成用土でも可)にグラつかない様に植え付け、潅水(鉢の底から水が流れ出る状態)させます。

 

 

そこから鉢が水に常に浸っている(鉢底から1㎝~2㎝程度)越水管理で様子を見ます。

 

※使用する水は私は基本的に通常の水を使用しますが、殺菌の為にダコニールを混ぜた殺菌水を使用する方もいらっしゃいます。

 

 

その間、株は直射日光の当たらない日陰で管理を行います。

子株を日光に当てない理由は、株のエネルギーを消費させない為です。

 

根が機能してない場合(株が水を吸う事ができない)、日光を当てると株から水分が奪われてしまい、株の体力を消費する事になります。

 

発根管理で最も重要なのは温度。

 

20℃~25℃を目安に温度調節を行って下さい。

 

発根までに要する期間は株の状態によりけりです。

 

一週間も経たずに発根する場合もあれば、1年以上発根しない場合もあります。

※株を土から抜いて確認する事も可能ですが、発根したての根は弱く、確認の際に根を傷つけてしまう事もあるので、頻繁に用土から抜くのはお勧めしません。

 

 

子株の活着確認

葉の中心、成長点が動き出せば、問題なく根が水を吸っている状態と判断できます。

発根、活着成功です。

 

赤玉小粒のみを使用して発根管理を行った場合は、成長させるために育成用土への植え替えが必要となります。

 

植え替えを行うタイミングとしては、ある程度ディッキアの根が張ってからがベストです。

 

根張りの状態を確認するには、株を軽く引っ張ってみる、という方法があります。

 

軽く力を入れても株が用土から抜けない場合は「根が張っている状態」と判断できます。 

※力を入れ過ぎてしまうと、そのまま抜けてしまうので気を付けて下さい。

 

成長点からの動きもあり、根張りも十分と確認できれば、植え替えを行います。

通常の用土に植え付けた後は、直射日光が当たらない明るい場所で管理を行います。

 

水遣りは発根管理時と同じく、越水状態で様子を見ます。

 

その後問題なければ通常のディッキアと同じ環境下で育成を行います。

ディッキアを徐々に環境に慣らしていく、というイメージです。

 

 

最後に

子株から育て作り込んでいくという作業は、ディッキア育成の醍醐味の一つです。

 

「親株の育成に失敗したので、もう一度ゼロからやり直したい…」という時にも利用できますし、何より完成されたディッキアを見て「このディッキアと同じものを自分でも育ててみたい!」と思った時、手に入れられる株は子株です。

 

今回の記事では子株の発根管理をなるべく丁寧に記載しましたが、サボテンやコーデックスと違い、ディッキアは比較的発根しやすい植物です。

 

身も蓋もない言い方になってしまいますが、土に刺して水をやっておけば結構な確率で発根は成功します。笑

 

ただ、どうしても発根させたい!という株に関しては上記した様な方法で管理を行っていく事をお勧めします。

 

ちなみに、私が最も発根に苦労したのは goehringii new formという品種です。

 

Dyckia goehringii var.lemei. (new form). (ディッキア ゴエリンギー. レメイorニューフォーム)

 

育成家の中でも発根が難しいと言われているようで、なんだかんだ、発根に半年以上を費やしました…。

 

ただそういった苦労を経て、発根し成長していくからこそ、愛着が一段と湧くというもの…。

 

土に生えたネギの様だったディッキアが、だんだんと美しいロゼット状に葉を展開させていく様は、何度見ても感動します。

 

今回記載した発根管理方法以外にも、水耕や水苔、ベラボンを使った発根管理を行っている方もいらっしゃいますので、興味がある方はぜひ調べてみて下さい。

 

この記事が皆様のディッキア育成の一助となれば幸いです。

 

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ビザールプランツと呼ばれる珍奇植物を中心テーマに植物用品をデザイン・制作するクリエイターチーム。"人の手で生み出す造形"をコンセプトにプラスチック鉢や陶器鉢、シルクスクリーン、刺繍ポスターなどを商品展開。Dyckia・Agave・Caudex・Euphorbia・Cactus・Bonsai…。多種多様な美しい造形をした植物のある暮らしをデザインする。それが私たちの仕事です。

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